てのひらにひとつ (ディアプラス文庫) [文庫]
夕映 月子 (著), 三池 ろむこ (イラスト)
てのひらにひとつ (ディアプラス文庫)
経営学部生の和音(かずと)は、塾講師のバイトをしている。
そこへ社会人の日下部(くさかべ)が、医学部受験のために入塾してきた。
本来の志望進路もゲイである己の恋心も、すべてを諦めてきた和音。
誕生日の夜、胸にしまい込んだその秘密を、和音は日下部に吐露する。
現実的ではない夢のためにひとり戦う日下部は、ただ黙って話を聞いてくれた。
そんな年上の男に、和音の心とからだはやがて惹かれてゆき……?
優しい年の差ロマンス!
前作「天国に手が届く」がすごくよかったので購入いたしました。
今回も優しい文章で心温まるお話でした。
地味といえば地味なんですけど決められた破綻を楽しむというより
初恋でワクワクドキドキ・胸ちょこっとキュンなお話でした。
32歳社会人の日下部は和音の通う大学の法学部の教務をしておりますが
祖父の死をきっかけに医師になるために医学部を受験しようと予備校の門を叩きます。
その予備校で講師のバイトをしている和音。
高校生とは違う大人の優しい雰囲気をもつ日下部に少しづつ心開いていく和音は
幼い時から両親の仲違いをみていて、もう二度と両親は仲直りできないんだと諦め
ピアノが好きで弾くことを何よりに楽しんでいたのだけれど
母ひとりの経済力では弟と二人に音楽教育をできないと才能のある弟のために
ピアノを弾くということを諦め
そしてなにより自分の性的な嗜好が同性にあるということで
母を悲しませたり、輝く未来をもつ弟に迷惑がかかるんじゃないかと
人とつきあったり、恋することも諦めて生きてきた青年でした。
日下部と酒を飲みその穏やかで丁寧な雰囲気に心開き思わず自分の性癖を吐露してしまいますが
日下部は優しくそのことを受け入れ、今まで一人で耐えて諦めるばかりの和音を
受け入れてくれるのです。
人に受け入れられる、その幸福感がいつのまにか恋になり
その恋心さえも諦めようと引いてしまおうとする切なさにちょっと胸きゅんいたしました(笑)
お話は一話目は和音視点で書かれているので初恋の切なさはこっちで堪能できましたし
二話目は日下部視点で描かれておりました。
年齢の分いろいろな経験をしてきた日下部はやっぱり大人です。
冒険すぎる、現実的じゃないと家族ばかりか、恋人にも受け入れられなかった
医学部を受験し医師になるという自分の夢を初めて受け入れて励ましてくれた青年
それだけでなく何もかもに諦めて、それでも精一杯がんばっている和音に惹かれていきます。
和音の性癖を聞いて、じゃ自分も恋の対象になるんだとすんなり受け入れて
なにもかもあらわにしていないと和音が思っている
自分へのひたむきな恋心を嬉しく思い
なによりも和音を手に入れたいと激情にも近い気持ちで渇望しております。
大人のずるさと弱さをわかっていてもなお和音が欲しいという日下部の気持ちが
地味に楽しかったです。
この作者さんデビューから二作目でここまでかけるんですよね・・・
次作が楽しみです。
[2回]
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