オールトの雲 (新書館ディアプラス文庫) (文庫)
一穂 ミチ (著)
木下けい子(イラスト)
(内容)
お姫様のような母親と一緒に太陽の前に現れた小さな王様―それが、流星だった。外国の血を引く繊細に整った容貌と、誇り高くまっすぐで、嘘やごまかしのない性格。そのせいで周囲から浮く彼をほうっておけず、いつだって側にいた。けれど、部活の合宿先で偶然会った流星は、太陽が知らない顔をしていて…。闇夜に迷う心を照らす、一等星の恋。その後の二人を描いた書き下ろし「真夜中の虹」も収録。
前作の「雪よ林檎の香のごとく 」も美しく抒情的な文章でとても印象的でした。
この作品では、さりげない言葉ですけど、それでも十分に美しい品格のある言葉があちこちで織り交ぜられていました。
お話の方も幼馴染であったふたりが、王子様のように思っていた流星の母の死をきっかけにして恋人に変化していく物語です。
淡々とした日常と流星の綺麗な小鳥のようなお母さんの療養生活と死によって大きな変化が否応なく訪れます。
今回はふたりの恋の物語の進展も楽しませていただいたのですが
一番印象に残ったのが
細く高い声の少女のような流星の母が選んだ最期の時です。
裕福な実家をもちながら、
恋のために何もかも投げ捨ててアメリカに駆け落ちしてしまった
激情の人でもありました。
恋がすべて人を幸せにするわけではないと思い知って離婚して
日本に帰っきたのち穏やかでささやかな幸福を手に入れましたが
思いがけない発病
そしてそれに至る死までの日々を彼女は見事な生きざまを見せてくれました。
治療による苦痛と変化を知られたくなくて、
息子とのみ迎えた静かな療養時間を選び
最後の最後を迎える時をホスピスで痛みを取りながら
夢か現かの意識の中で
自分が幸せだった息子と過ごした大切な時間を思い
残してしまう息子のことをおもい
最後の通夜とかお葬式をきちんと段取りして、最後に眠るお墓まで決めていたのです。
はかなげな少女のような彼女のなかのこうした強さが
なぜかしら印象的だったのは、
桜のような見事な散りかたのせいかも知れない。
心の中で父親を求めながら、
素直に欲することができなかった流星のような不器用さはおそらく彼女からの遺伝かも
今回はBLに感動でもありましたが、一人の人間の生きざまと死にざまが妙に心に残った本でした。
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